本シリーズでは、私が経験した実際の症例をもとに、そこから考えられる座学とポイント、
私が思い描いた治療経過をまとめていきます。
そして、学生の時から知っておきたかった情報をまとめていきます。
第6回目はダックスフンドの尺骨遠位成長板早期閉鎖による橈骨変形です。
現役臨床獣医師が解説!⑥ダックスフンドの尺骨遠位成長板早期閉鎖による橈骨変形
骨の形成
骨の形成は軟骨内骨化と膜内骨化の大きく二つの様式に分かれます。
軟骨内骨化は海綿骨を産生する機能で、骨端および骨幹端に位置する成長板で行われます。
まず軟骨組織が作られ、徐々に骨組織に置換されます。
一方、膜内骨化は皮質骨を産生する機能で、骨膜で行われます。間葉系細胞が軟骨細胞を経ることなく骨芽細胞に直接分化します
長管骨を例に骨の成長を図で表します。
長管骨は大きく骨幹、骨幹端、骨端の3つに分かれます。
骨端に位置する骨端成長板 別名二次骨化中心 では軟骨内骨化が行われ、放射状に骨端が拡大します。
骨幹端成長板はいわゆる成長板と呼ばれる部分で、軟骨内骨化によって長軸方向に骨が伸長します。
最後に骨膜では膜内骨化によって皮質骨が作られ、横径方向に骨が太く成長します。
今回はこの骨幹端成長板障害によって生じる疾病をご紹介したいと思います。
骨幹端成長板の種類
骨幹端成長板は大きく二つに分類されます。
被圧迫性成長板は長管骨の骨幹端に位置し、長軸方向の成長に貢献するのに対し
被牽引性成長板は脛骨粗面や肘頭、大腿骨頭といった腱が起始、停止する部位に位置し、骨の成長にはほとんど貢献しません。
成長板の閉鎖時期
各成長板の閉鎖時期です。
成長終期になると軟骨細胞の増殖能が低下し、骨幹端と骨端の海綿骨が連続し、成長板は閉鎖します。閉鎖した成長板は骨端線という痕跡となります。
成長板骨折
5型、6型はその当時はレントゲン検査はわからない。
つまり、ジャンプして明らかな骨折がなくても、成長板早期閉鎖、つまり成長と共に足の変形(外旋や前屈など)に注意する必要があります。
線維性の関節包と靭帯は骨幹端-骨幹軟骨間の2-5倍の強度。
そのため、過剰な負荷によって分離、変位、骨折といった損傷を受けやすいです。
骨幹端成長板は関節周囲の中でも脆弱な構造物であるため、外傷により分離や骨折といった損傷を受けやすいと考えられています。
Salter-Harris I型骨折;骨折が成長板に沿って生じたもの
Salter-Harris II型骨折;骨折が成長板に沿って生じると同時に,骨幹端骨折を含むもの
Salter-Harris III型骨折;骨折が成長板と骨端板に生じたもので,通常,関節内骨折である
Salter-Harris IV型骨折;関節内骨折であり,骨折線が成長板を貫通して骨端板と骨幹端の両方におよぶもの
Salter-HarrisV型骨折;X 線検査では確認できないが,成長板が圧迫されることにより,数週間後に成長板の閉鎖が明らかになるもの
Salter-Harris VI型骨折;部分的な成長板の障害によって,成長板の部分閉鎖を伴うもの
成長板骨折の好発部位
1型 骨端軟骨の分離 近位上腕骨、近遠大腿骨
2型 骨幹端の骨の端がわずかに骨折
成長板の位置で骨端が変位
遠位大腿骨、近遠位上腕骨、近位脛骨
3型 骨端を通過し成長板の一部におよぶ骨折
骨幹端は罹患しない 遠位上腕骨
4型 骨端、成長板および骨幹端におよぶ骨折
遠位大腿骨、遠位上腕骨
5型 受傷直後は軟部組織腫脹のみ、骨異常なし⇒数ヶ月後に骨短縮、成長板一部閉鎖、変形が認められる
遠位尺骨、遠位橈骨、遠位大腿骨
成長板骨折の治療方法
ねじ山なしの細いKワイヤーなどは十分な固定力を発揮し、かつ骨伸長を妨げない
成長板に対してできるだけ垂直方向へ挿入
成長板骨折の発生傾向
発生骨
大腿骨(46.5%)
上腕骨(19.8%)
脛骨(13.5%)
橈骨(11.8%)
発生部位
遠位 (79.5%)
近位 (20.5%)
salter harris型骨折の発生傾向ですが、骨と損傷タイプの組み合わせとしては遠位大腿骨4型骨折が最多であり、
また成長板障害による変形発生率は5-10%とされています。
長管骨骨折のおよそ1/3~1/4で骨端軟骨損傷 おもにsalter2
大腿骨遠位骨端軟骨の罹患が最多 続いて上腕骨遠位、大腿骨近位、尺骨遠位、橈骨遠位、脛骨近位、脛骨遠位の順
発生部タイプ
Ⅰ型 39.9%
Ⅱ型 37.8%
Ⅲ型 3.1%
Ⅳ型 19.1%
V型 0.0%
骨幹端成長板早期閉鎖
原因 外傷(Salter HarrisⅤ型)、異形成症、栄養障害 など
症状 変形(屈曲、内外反、回旋)、短縮、関節不一致 など
治療 部分的骨切除(成長期)、矯正骨切り術
次に骨幹端成長板早期閉鎖についてです。
原因としてはsalter harris5型骨折を代表する外傷や異形成症、栄養障害などがいわれており、変形や脚短縮、関節不一致などの症状を認めます。
治療は成長期であれば部分的骨切除、成長が終了していれば矯正骨切りとなります。
下に示したのは前腕変形を認めた症例の橈尺骨成長板の閉鎖部位の割合です。
尺骨遠位成長板は円錐状であるため最も圧縮による損傷を受けやすく、高い発生率を示します。
オレンジ色で示すのは骨の伸長率であり、尺骨近位の成長板は肘頭の伸長にしか関与しないため、前腕変形には寄与しません
尺骨遠位成長板早期閉鎖
独特の円錐形によって剪断力によって剪断されず圧縮力へと変化し、
成長軟骨内の軟骨細胞が損傷されやすくなる⇒尺骨短縮
橈尺骨の骨間靭帯によって結合していることで、尺骨が弓の弦のように働き橈骨の長軸方向成長を妨げる
⇒橈骨遠位成長板の外側あるいは尾外側部分の圧迫が成長障害をさらに引き起こす
⇒手根の外反および頭側への湾曲変形
- 尺骨遠位 83%
- 橈骨遠位 11%
- 橈骨近位 6%
salter V型損傷…成長板全体あるいは偏心性に一部分が早期閉鎖する可能性
発生直後は気づかないほどわずかでも、経時的に角度変形や回旋変形が生じる
尺骨近位成長板
生後187~222日で閉鎖
肘頭の伸長のみ関与 形態異常に関与なし
尺骨遠位成長板
肘関節より遠位部の長軸方向の成長100%担う
橈骨
近位40% 遠位60%
肘関節の体重負荷領域75-80%を担う
生後220-250日で閉鎖
治療法
骨格成長期
矯正手術…早期 隣接する関節の不可逆的な病理学的変化を最小限にとどめる
小型犬4ヶ月 大型犬7ヶ月 超大型犬8ヶ月未満
それ以上は成熟骨格 必ずしも完全閉鎖しているわけではないが、成長する余力がほとんど残っていない
尺骨遠位および橈骨遠位(部分的)の成長板早期閉鎖
尺骨遠位成長板の早期閉鎖⇒
尺骨短縮による弓弦効果⇒
橈骨遠位成長板の外側または尾外側領域への圧縮力⇒
成長板完全停止、架橋骨へ置換⇒
内側成長板の成長維持によって橈骨遠位の外反変形継続(損傷が尾外側であれば等速への湾曲も起こる)
成長期であれば、尺骨部分切除(尺骨径の1.5倍長)
尺骨遠位の部分的骨切除術⇒弓弦効果除去
成長板すぐ近位にて骨径の約1.5倍の尺骨切除⇒上腕三頭筋の力によって尺骨が近位に牽引されるため、肘関節の中程度のアラインメント不整は自然修正可能
幼若犬(median5month)は手根関節外反角25°未満
成犬(median 6.5month)は13°未満であれば、骨切除のみで対応可能
premature closure of the ulnar physis in the dog JAAHA1989
手根関節外反角25°以上の場合、橈骨矯正骨切り
サーキュラー型創外固定装置による持続的伸延
不均衡な長さの肢をもつ成犬、より長い骨成長を期待する幼犬に適応
各変形(回転性変形も適応)と長さの不均衡を同時矯正可能
前腕成長障害の障害部位の発生率
橈骨成長板早期閉鎖は発生が少ない。
橈骨短縮によって橈骨頭と上腕骨顆の関節腔が拡大し、また内外側側副靭帯に引っ張られて上腕骨顆が向上突起に接触することで断片化やDJDが進行する。
尺骨近位の成長板は肘頭の伸長にのみ関与するため、障害されても尺骨自体の形成異常は起こさない。
橈骨骨切りおよび伸延術は技術的に難しく、尺骨骨切りによる短縮の方が容易である。
それに対して遠位成長板は円錐形をしており、成長板が圧縮されやすく、もっとも障害を受けやすい。
ポイント
尺骨の成長の100%を担っているため、尺骨短縮が著しく、さらに弓弦効果によって橈骨遠位成長板外側も障害を受けやすく、最終的に前腕の頭側湾曲変形および手根の外反変形が生じる。
尺骨成長板の早期閉鎖による前腕骨変形
尺骨の成長板の早期閉鎖により、橈骨・尺骨の外反変形が起こることもあります。
足先が正常な方向を向くように矯正骨切りを行い、肘関節と手根関節の位置関係を正常に戻します。
尺骨遠位成長板早期閉鎖
尺骨の成長板が障害され橈骨の成長が拘束され起きる骨変形
原因
骨折(Salter-Harris)、外傷、肥大性骨異栄養症、
尺骨軟骨芯遺残、遺伝性(スカイテリア・Mダックス)
病態
成長期の橈骨と尺骨は同じ速度で成長
→肘関節と手根関節の正常な関節機能を維持
尺骨の成長障害👉橈骨の長軸方向の成長を制限
症状
橈骨:外反、外旋、前屈
手根の靭帯損傷、骨関節炎、肘関節脱臼
治療
成長期(~6ヶ月齢) | 成熟期(6ヶ月齢~) | |
橈骨の開放 | 目的 | 変形矯正 |
遠位尺骨切除術 | 治療 | 変形矯正骨切り術 |
近位尺骨骨切り術 | (楔形骨切り術) | |
尺骨骨切り術 |
骨折について
骨折を直すのに大事なこと
AOとは?
AO (Arbeitsgemeinschaft für Osteosynthesefragen) は、1958年スイスで13名の外科医によって創設された骨折治療に関する研究グループです。
約60年の時を経て、国際的、外科的、そして、科学的な研究財団(Foundation)へと発展し、世界各国20,000人以上の整形外科医・外傷医、手術室看護師(ORP)、獣医師が所属する世界有数の学術的組織となり、外傷及び骨接合法における”Global Standard”と呼ばれるほどになりました。
2008年には、より高度で専門的な外傷治療を目指す外科医に臨床・教育・交流の場を提供することを主な目的としたAO Trauma部門が設立されました。
AOの原則
- 解剖学的関係を再建するための骨折整復と固定。
- 骨折の特徴と傷害要求に応じた固定あるいは副子による安定化。
- 注意深い取り扱いと丁寧な整復主義による軟部組織及び骨に対する血行の温存。
- 患部と患者の早期かつ安全な運動
以上は患者治療のAOの原則を具体的に、そして簡潔に述べられています。
骨折の種類は、直達外力、介達外力があります。
直達外力は、上記の例でいくとゴルフクラブのような直接のダメージ。
介達外力は、ジャンプなどの間接的な骨へのダメージです。
どれだけの力が加わったかにより、筋肉や血管、神経などの組織の損傷度合いの強さが違います
後遺症や、予後に関わってきます。
骨折自体は、年齢、開放の有無、骨折部位、骨折形態に分類
年齢
年齢が特に6ヶ月未満、この場合は成長板骨折に注意します。
成長板骨折にはSalter-Haris1-6型まで分かれます。
成長板自体はレントゲンには映らず、特に圧迫タイプのⅤ型、Ⅵ型はその時点では問題がなくても
成長と共に足の変形をきたすことがあります。(成長板早期閉鎖)
損傷のタイプによってsalter harrisの1-5型に分類されます。
1型は成長板と骨幹端の境界での分離で、
2型は一部骨幹端領域の骨折を伴うタイプ、
3型は成長板と骨端の横断性の骨折、
4型は骨幹端から成長板、骨端を含んだ横断性の骨折、
5型は成長板の圧縮による損傷であり、好発部位はそれぞれ下に示す通りです。
3,4型骨折は関節内骨折であるため、また5型は広域の成長板損傷であり高率に変形が生じるため、予後が悪くなります。
開放か閉鎖か
開放骨折か閉鎖骨折どうかは、骨が外に出ていたかによって変わります。
Ⅰ型:1cm以下の小さな裂創
鋭利な骨折端が皮膚を貫通しすぐに戻った状態
→特に橈尺骨・脛骨骨折では注意!猫では大腿骨も多い
Ⅱ型:1cm以上の裂創、中程度の軟部組織損傷
Ⅲ型:広範囲の皮膚の剥離、重度の軟部組織損傷
感染を伴う複雑な状態の骨折を複雑骨折と言います。
骨折部位
骨折部位は、遠位、骨幹部、近位、関節内、関節外に分かれます。
関節内骨折の場合は、完全な整復が必要なため、後述の解剖学的整復、直接的癒合になります。
骨折の分類
- 不完全骨折
- 完全骨折:単純、楔形、粉砕、分節
に分かれます。
さらに、完全骨折の内、骨折の形で
骨折の形
- 横骨折:30度未満の角度
- 斜骨折:30度以上の角度
- 短斜骨折:骨折線が直径の2倍未満
- 長斜骨折:骨折線が直径の2倍以上
- 螺旋骨折:斜骨折のひとつ
ここまでが分類のお話です。
治療の難易度は
注意ポイント
横骨折→斜・螺旋骨折→楔形骨折→粉砕骨折の順
今回の症例は、
今回の症例は、
ポイント
先天的両側尺骨遠位成長板早期閉鎖による橈骨変形
と診断できます。
治療方針の決定(治療 or 紹介)
ここで骨折の難易度を判断します。
今回は、治療自体は簡単で、あとは今後の成長でどれだけ変形が自力で強制できるかにかかっています。
ポイント
短い尺骨から橈骨や肘関節を解放するため、より簡単にアプローチできる遠位切除を実施します
ここの骨折で難しいのは、橈骨の変形矯正や骨延長が必要な場合です。
術前計画
今回は成長板骨折による早期閉鎖なので、
早期に骨切除をして、橈骨を開放してあげよう!
と考えるわけです。
また、橈骨を解放する手術として上記のように
遠位尺骨骨切除か近位尺骨骨切の2つがあります。
治療のポイントは、肘関節の不一致の程度や骨間靭帯の強度によって変わりますが、
両手術の近位尺骨の変位に有意差は観察されませんでした。
In Vitro Comparison of Proximal Ulnar Osteotomy and Distal Ulnar Osteotomy with Release of the Interosseous Ligament in a Canine Model
手術
さて上記のことを考えて望んだ手術の結果です。
しっかり結果を受け止めて、反映して、次に生かします!
見るべきポイント
尺骨の骨幅の1.5倍切除できているか
遠位から2−3cmのところで切除できているか
肘関節の不一致が改善されているか
メモ
今回は、上記のポイントは達成できていますね。
術後管理・骨癒合評価
今後は、定期的に成長期が終わるまでレントゲンをとり、骨の成長を見守ります。
見た目の足の変形や破行、レントゲン上の橈骨の変形がないかをチェックします。
1ヶ月後のレントゲン写真です。
橈骨の変形は進行は指定なさそうですね。
また、赤矢印の肘関節の不一致が改善しています。