本シリーズでは、私が経験した実際の症例をもとに、そこから考えられる座学とポイント、
私が思い描いた治療経過をまとめていきます。
そして、学生の時から知っておきたかった情報をまとめていきます。
第7回目は⑦ヨークシャーテリアの脛骨近位成長板骨折です。
現役臨床獣医師が解説!⑦ヨークシャーテリアの脛骨近位成長板骨折
骨の形成
骨の形成は軟骨内骨化と膜内骨化の大きく二つの様式に分かれます。
軟骨内骨化は海綿骨を産生する機能で、骨端および骨幹端に位置する成長板で行われます。
まず軟骨組織が作られ、徐々に骨組織に置換されます。
一方、膜内骨化は皮質骨を産生する機能で、骨膜で行われます。間葉系細胞が軟骨細胞を経ることなく骨芽細胞に直接分化します
長管骨を例に骨の成長を図で表します。
長管骨は大きく骨幹、骨幹端、骨端の3つに分かれます。
骨端に位置する骨端成長板 別名二次骨化中心 では軟骨内骨化が行われ、放射状に骨端が拡大します。
骨幹端成長板はいわゆる成長板と呼ばれる部分で、軟骨内骨化によって長軸方向に骨が伸長します。
最後に骨膜では膜内骨化によって皮質骨が作られ、横径方向に骨が太く成長します。
今回はこの骨幹端成長板障害によって生じる疾病をご紹介したいと思います。
骨幹端成長板の種類
骨幹端成長板は大きく二つに分類されます。
被圧迫性成長板は長管骨の骨幹端に位置し、長軸方向の成長に貢献するのに対し
被牽引性成長板は脛骨粗面や肘頭、大腿骨頭といった腱が起始、停止する部位に位置し、骨の成長にはほとんど貢献しません。
成長板の閉鎖時期
各成長板の閉鎖時期です。
成長終期になると軟骨細胞の増殖能が低下し、骨幹端と骨端の海綿骨が連続し、成長板は閉鎖します。閉鎖した成長板は骨端線という痕跡となります。
成長板骨折
5型、6型はその当時はレントゲン検査はわからない。
つまり、ジャンプして明らかな骨折がなくても、成長板早期閉鎖、つまり成長と共に足の変形(外旋や前屈など)に注意する必要があります。
線維性の関節包と靭帯は骨幹端-骨幹軟骨間の2-5倍の強度。
そのため、過剰な負荷によって分離、変位、骨折といった損傷を受けやすいです。
骨幹端成長板は関節周囲の中でも脆弱な構造物であるため、外傷により分離や骨折といった損傷を受けやすいと考えられています。
Salter-Harris I型骨折;骨折が成長板に沿って生じたもの
Salter-Harris II型骨折;骨折が成長板に沿って生じると同時に,骨幹端骨折を含むもの
Salter-Harris III型骨折;骨折が成長板と骨端板に生じたもので,通常,関節内骨折である
Salter-Harris IV型骨折;関節内骨折であり,骨折線が成長板を貫通して骨端板と骨幹端の両方におよぶもの
Salter-HarrisV型骨折;X 線検査では確認できないが,成長板が圧迫されることにより,数週間後に成長板の閉鎖が明らかになるもの
Salter-Harris VI型骨折;部分的な成長板の障害によって,成長板の部分閉鎖を伴うもの
成長板骨折の好発部位
1型 骨端軟骨の分離 近位上腕骨、近遠大腿骨
2型 骨幹端の骨の端がわずかに骨折
成長板の位置で骨端が変位
遠位大腿骨、近遠位上腕骨、近位脛骨
3型 骨端を通過し成長板の一部におよぶ骨折
骨幹端は罹患しない 遠位上腕骨
4型 骨端、成長板および骨幹端におよぶ骨折
遠位大腿骨、遠位上腕骨
5型 受傷直後は軟部組織腫脹のみ、骨異常なし⇒数ヶ月後に骨短縮、成長板一部閉鎖、変形が認められる
遠位尺骨、遠位橈骨、遠位大腿骨
成長板骨折の治療方法
ねじ山なしの細いKワイヤーなどは十分な固定力を発揮し、かつ骨伸長を妨げない
成長板に対してできるだけ垂直方向へ挿入
成長板骨折の発生傾向
発生骨
大腿骨(46.5%)
上腕骨(19.8%)
脛骨(13.5%)
橈骨(11.8%)
発生部位
遠位 (79.5%)
近位 (20.5%)
salter harris型骨折の発生傾向ですが、骨と損傷タイプの組み合わせとしては遠位大腿骨4型骨折が最多であり、
また成長板障害による変形発生率は5-10%とされています。
長管骨骨折のおよそ1/3~1/4で骨端軟骨損傷 おもにsalter2
大腿骨遠位骨端軟骨の罹患が最多
続いて上腕骨遠位、大腿骨近位、尺骨遠位、橈骨遠位、脛骨近位、脛骨遠位の順
発生部タイプ
Ⅰ型 39.9%
Ⅱ型 37.8%
Ⅲ型 3.1%
Ⅳ型 19.1%
V型 0.0%
骨折について
骨折を直すのに大事なこと
AOとは?
AO (Arbeitsgemeinschaft für Osteosynthesefragen) は、1958年スイスで13名の外科医によって創設された骨折治療に関する研究グループです。
約60年の時を経て、国際的、外科的、そして、科学的な研究財団(Foundation)へと発展し、世界各国20,000人以上の整形外科医・外傷医、手術室看護師(ORP)、獣医師が所属する世界有数の学術的組織となり、外傷及び骨接合法における”Global Standard”と呼ばれるほどになりました。
2008年には、より高度で専門的な外傷治療を目指す外科医に臨床・教育・交流の場を提供することを主な目的としたAO Trauma部門が設立されました。
AOの原則
- 解剖学的関係を再建するための骨折整復と固定。
- 骨折の特徴と傷害要求に応じた固定あるいは副子による安定化。
- 注意深い取り扱いと丁寧な整復主義による軟部組織及び骨に対する血行の温存。
- 患部と患者の早期かつ安全な運動
以上は患者治療のAOの原則を具体的に、そして簡潔に述べられています。
骨折の種類は、直達外力、介達外力があります。
直達外力は、上記の例でいくとゴルフクラブのような直接のダメージ。
介達外力は、ジャンプなどの間接的な骨へのダメージです。
どれだけの力が加わったかにより、筋肉や血管、神経などの組織の損傷度合いの強さが違います
後遺症や、予後に関わってきます。
骨折自体は、年齢、開放の有無、骨折部位、骨折形態に分類
年齢
年齢が特に6ヶ月未満、この場合は成長板骨折に注意します。
成長板骨折にはSalter-Haris1-6型まで分かれます。
成長板自体はレントゲンには映らず、特に圧迫タイプのⅤ型、Ⅵ型はその時点では問題がなくても
成長と共に足の変形をきたすことがあります。(成長板早期閉鎖)
損傷のタイプによってsalter harrisの1-5型に分類されます。
1型は成長板と骨幹端の境界での分離で、
2型は一部骨幹端領域の骨折を伴うタイプ、
3型は成長板と骨端の横断性の骨折、
4型は骨幹端から成長板、骨端を含んだ横断性の骨折、
5型は成長板の圧縮による損傷であり、好発部位はそれぞれ下に示す通りです。
3,4型骨折は関節内骨折であるため、また5型は広域の成長板損傷であり高率に変形が生じるため、予後が悪くなります。
開放か閉鎖か
開放骨折か閉鎖骨折どうかは、骨が外に出ていたかによって変わります。
Ⅰ型:1cm以下の小さな裂創
鋭利な骨折端が皮膚を貫通しすぐに戻った状態
→特に橈尺骨・脛骨骨折では注意!猫では大腿骨も多い
Ⅱ型:1cm以上の裂創、中程度の軟部組織損傷
Ⅲ型:広範囲の皮膚の剥離、重度の軟部組織損傷
感染を伴う複雑な状態の骨折を複雑骨折と言います。
骨折部位
骨折部位は、遠位、骨幹部、近位、関節内、関節外に分かれます。
関節内骨折の場合は、完全な整復が必要なため、後述の解剖学的整復、直接的癒合になります。
骨折の分類
- 不完全骨折
- 完全骨折:単純、楔形、粉砕、分節
に分かれます。
さらに、完全骨折の内、骨折の形で
骨折の形
- 横骨折:30度未満の角度
- 斜骨折:30度以上の角度
- 短斜骨折:骨折線が直径の2倍未満
- 長斜骨折:骨折線が直径の2倍以上
- 螺旋骨折:斜骨折のひとつ
ここまでが分類のお話です。
治療の難易度は
注意ポイント
横骨折→斜・螺旋骨折→楔形骨折→粉砕骨折の順
今回の症例は、
今回の症例は、
屈曲させるkとで近位の骨片が動いているのがわかりますよね?
ここは、外からの触診でも痛がらないことも多いです。
ポイント
左側脛骨近位成長板Salter-Harris type2
と診断できます。
治療方針の決定(治療 or 紹介)
ここで骨折の難易度を判断します。
今回は、TPA(脛骨高平部)をなるべく戻すように整復しますが、戻らないことも多いです。
ポイント
成長板骨折で、近位骨片から距離もなく、プレート設置ができないので、ピンニングが視野に入ります。
ここの骨折で難しいのは、膝蓋靭帯の剥離などで、脛骨粗面の治療が必要な場合です。
術前計画
今回は成長板骨折なので、
成長板に影響をなるべく与えない、固定方法を採用しよう!
と考えるわけです。
手術
さて上記のことを考えて望んだ手術の結果です。
しっかり結果を受け止めて、反映して、次に生かします!
見るべきポイント
- ピンの長さ、角度、方向
- ピンの場所
- 変位の矯正、固定
メモ
今回は、上記のポイントは達成できていますね。
術後管理・骨癒合評価
脛骨近位は膝関節と関係しているため、
膝を伸ばす=関節包が緩む=大腿四頭筋が弛緩=脛骨粗面に力がかからない
膝を曲げる=関節包が伸びる=大腿四頭筋が緊張=脛骨粗面が引っ張られる
上記のことが起こります。
脛骨粗面を固定するときは、膝を伸ばして置いた方が、変異せずに固定できるため、
ロバートジョーンズ訪台で少なくとも4週間は固定します。