整形外科

現役臨床獣医師が解説!⑤キャバリアの脛骨骨幹部骨折の治療

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本シリーズでは、私が経験した実際の症例をもとに、そこから考えられる座学とポイント、

私が思い描いた治療経過をまとめていきます。

そして、学生の時から知っておきたかった情報をまとめていきます。

第5回目はキャバリアのジャンプによる脛骨骨幹部骨折です。

現役臨床獣医師が解説!⑤キャバリアの脛骨骨幹部骨折

脛骨骨折とは?

脛骨は、すねの骨であり、大腿骨と足根骨の間にある骨です。

外側には体重負荷には関わらない腓骨がついています。

解剖学的な特徴は、脛骨粗面に、膝蓋靭帯が付着しており、ここが折れると、剥離骨折になります。

成長板は、近位、遠位、そしてこの脛骨粗面にも存在し、脛骨粗面の成長板閉鎖は遅いです。

またこの脛骨粗面は外側に迫り出しているような構造になっています。

近位には膝関節、遠位には足根関節があり、後肢の病気として最も多い病気の一つである膝関節に大きな影響を与えます。

また、成長期においては、成長板骨折もよく認められます。

骨折について

骨折を直すのに大事なこと

AOとは?

AO (Arbeitsgemeinschaft für Osteosynthesefragen) は、1958年スイスで13名の外科医によって創設された骨折治療に関する研究グループです。

約60年の時を経て、国際的、外科的、そして、科学的な研究財団(Foundation)へと発展し、世界各国20,000人以上の整形外科医・外傷医、手術室看護師(ORP)、獣医師が所属する世界有数の学術的組織となり、外傷及び骨接合法における”Global Standard”と呼ばれるほどになりました。

2008年には、より高度で専門的な外傷治療を目指す外科医に臨床・教育・交流の場を提供することを主な目的としたAO Trauma部門が設立されました。

AOの原則
  • 解剖学的関係を再建するための骨折整復と固定。
  • 骨折の特徴と傷害要求に応じた固定あるいは副子による安定化。
  • 注意深い取り扱いと丁寧な整復主義による軟部組織及び骨に対する血行の温存。
  • 患部と患者の早期かつ安全な運動

以上は患者治療のAOの原則を具体的に、そして簡潔に述べられています。

骨折の種類は、直達外力、介達外力があります。

直達外力は、上記の例でいくとゴルフクラブのような直接のダメージ。

介達外力は、ジャンプなどの間接的な骨へのダメージです。

どれだけの力が加わったかにより、筋肉や血管、神経などの組織の損傷度合いの強さが違います

後遺症や、予後に関わってきます。

骨折自体は、年齢、開放の有無、骨折部位、骨折形態に分類

年齢

年齢が特に6ヶ月未満、この場合は成長板骨折に注意します。

成長板骨折にはSalter-Haris1-6型まで分かれます。

成長板自体はレントゲンには映らず、特に圧迫タイプのⅤ型、Ⅵ型はその時点では問題がなくても

成長と共に足の変形をきたすことがあります。(成長板早期閉鎖)

5型、6型はその当時はレントゲン検査はわからない。

つまり、ジャンプして明らかな骨折がなくても、成長板早期閉鎖、つまり成長と共に足の変形(外旋や前屈など)に注意する必要があります。

4週間程度で癒合するため、早期のインプラント抜去が望まれます。

今回のレントゲンを見ると成長板が残っています。

つまり、骨折を治して後も、反対足と比べて変形が進まないかのチェックは必要です。

 

開放か閉鎖か

開放骨折か閉鎖骨折どうかは、骨が外に出ていたかによって変わります。

Ⅰ型:1cm以下の小さな裂創

鋭利な骨折端が皮膚を貫通しすぐに戻った状態

→特に橈尺骨・脛骨骨折では注意!猫では大腿骨も多い

Ⅱ型:1cm以上の裂創、中程度の軟部組織損傷

Ⅲ型:広範囲の皮膚の剥離、重度の軟部組織損傷

感染を伴う複雑な状態の骨折を複雑骨折と言います。

骨折部位

骨折部位は、遠位、骨幹部、近位、関節内、関節外に分かれます。

関節内骨折の場合は、完全な整復が必要なため、後述の解剖学的整復、直接的癒合になります。

 

骨折の分類
  • 不完全骨折
  • 完全骨折:単純、楔形、粉砕、分節

に分かれます。

さらに、完全骨折の内、骨折の形で

骨折の形

  • 横骨折:30度未満の角度
  • 斜骨折:30度以上の角度
  • 短斜骨折:骨折線が直径の2倍未満
  • 長斜骨折:骨折線が直径の2倍以上
  • 螺旋骨折:斜骨折のひとつ

 

ここまでが分類のお話です。

治療の難易度は

注意ポイント

横骨折→斜・螺旋骨折→楔形骨折→粉砕骨折の順

脛骨は、螺旋骨折が多いです。

開放性骨折の治療

原則

  • 損傷発生時から外科的治療の開始まで、汚染を予防あるいは最小化
  • 徹底的な洗浄と無菌的外科的デブリードマンを行って、壊死したり失活した組織を除去
  • 軟部組織と骨両方への血行を温存
  • 安定な固定
  • 肢の積極的な可動化を早期に行う 

洗浄とデブリードマン

大量の生理食塩水やリンゲル液で洗浄、十分なデブリードマンを行うために創の拡大が必要

失活したすべての組織を除去し、血管や神経を損傷しないように行います。

非常に大きな創傷部では難しく、徐々にデブリードマンができるように創を開放したままにする必要があります

生存していない組織は、筋肉が収縮しない・メスを入れた際に出血しない・紫色の色調が基準となります。

骨折の固定

  • 第1度損傷は閉鎖性骨折として治療
  • 第2度損傷に対しては異なった初期管理が必要ですが骨折の安定化と安定後の管理は閉鎖性骨折の治療と同様
  • 第3度損傷の安定化は主に創外固定器で行います

髄内ピンは一般的に安定な第1度骨折で受傷後6~8時間以内に治療できる場合

スクリューとプレートは骨折が関節面を含んでいる場合特に適しています

創外固定器は外傷領域は開放創として治療するために自由にアクセスできるという利点

特に脛骨や橈尺骨に容易に設置できます 

 

創部の閉鎖

創部の閉鎖は第1と第2度損傷で最小限の軟部組織の損傷が十分にデブライドでき、張力をかけずに皮膚を閉鎖できる場合のみです

理論的には、汚染創は黄金期と呼ばれる受傷後6~8時間が経過しないと感染にはならず、

デブリードマンに続いてドレナージせずに閉鎖できます。

創傷部を開放したままにし、開放創は生理食塩水を浸した天然素材の滅菌ガーゼスポンジを創内に詰めて

滅菌ドレッシングで覆ったまま維持します。

ドレッシングは滲出液や化膿が治るまで毎日交換します 。

今回の症例は、

今回の症例は、

 

ポイント

左脛骨骨幹部骨折、螺旋骨折

と診断できます。

さて、この症例が来た時に、

下記の順番で見ていきます。

1.全身状態の評価

直達外力、介達外力なのか

つまり骨折の治療<呼吸状態、内臓の損傷

となるわけです。

交通事故であれば、まずは胸のレントゲンで、肋骨の損傷や肺、心臓の状態の確認が必要です。

今回は、ジャンプという落下なので、大きな力はかからなかった介達外力です。

2.骨折部位の確認(単独 or 複数)

左足を上げていても、必ず右足、反対足もとりましょう!

骨折線は長いですが、一箇所の螺旋骨折ですね

3.骨折部位の剃毛(閉鎖 or 開放)

必ず毛を刈って確認しましょう。

また明らかに骨が出ていなくても、一度骨が皮膚を貫通して

皮膚に小さい傷がある場合もあるので、小さい傷も見逃さないように確認します。

今回は閉鎖骨折でした。

4.X線検査により骨折分類

上記の種類を参考に確認します。

ここで診断を下します。

5.治療方針の決定(治療 or 紹介)

ここで骨折の難易度を判断します。

今回は、骨折の部位は、骨の大きさもあり、難しいものではない。

固定をしっかりすれば、若い(成長板がある)ためすぐに癒合が達成されます。

ポイント

1ヶ月程度の固定後、全てのインプラントを抜く予定で、螺旋骨折のため、長いプレートを選択します。

ここの骨折で難しいのは、近位や遠位の成長板の骨折です。

6.術前計画 and/or 外固定

生物学的整復か、解剖学的整復かを選択します。

解剖学的整復

–全ての骨片を元の位置に戻すこと

直接的癒合

  • 解剖学的整復
  • 絶対的安定(強固)
  • 骨片間の間隙 1mm未満

単純骨折、関節内骨折、整復可能な骨折

生物学的整復

–骨片にはあまり触れずに、アライメントのみを整復すること

間接的癒合

  • 生物学的整復
  • 相対的安定(柔軟)
  • 骨片間の間隙 1mm以上

整復不可能な骨折

骨の治り方 リモデリング
生物学的整復(関節癒合)
  1. 骨折部の出血
  2. 凝血塊形成
  3. 炎症と浮腫
  4. 未分化間葉細胞の増殖
  5. 軟骨と骨の形成
  6. 仮骨から正常な骨へのリモデリング

 

解剖学的整復
  1. 直接皮質骨のリモデリングが進行
  2. 骨折面の吸収を伴わず、内的なリモデリング
  3. 骨折部における理モデリングは骨折部における骨密度の軽微な低下を示す(骨吸収との混乱)
  4. 皮質骨間の仮骨形成を認めず、髄腔内仮骨量が少ない

 

今回は脛骨骨折なので、

仮骨を伴わない解剖学的な整復をして、脛骨内側にプレートを適応しよう!

と考えるわけです。

固定の方法

プレート

K-wire

スタイマンピン

スクリュー

創外固定

 

プレートの長さ、スクリューの数、太さ

スクリューの数は各側で少なくとも二本ずつ(骨皮質4カ所)最低でも3から4本のスクリューが理想的です。

スクリューの穴と骨折線の間隔は最低でも4~5mmあるいは使うスクリュー径と同じ長さを取るべきです。

スクリュー径は、骨の直径の25-30%程度にしないと、骨の強度に影響します。

 

プレートを設置する場所

プレートを設置する場所ですが、テンションサイドという考え方があります。

ポイント

骨には、コンプレッションサイドとテンションサイドがあります。

つまり体重がかかった際に屈曲する力が働くか、伸長する力が働くかによって変わります。

ポイント

例えば橈骨では、頭側面がテンションサイド、尾側面がコンプレッションサイドとなります。

脛骨では、内側面がテンションサイド、外側面がコンプレッションサイドとなります。

どうしてもコンプレッションサイドにプレートを設置しないといけない場合(上腕骨内側上顆など)は、

術後に外固定=バンデージを行う。

という戦略になるわけです。

 

インプラントの選択・工夫!

インプラントには、プレート、創外固定、ピンなどがあります。

橈骨の整復には、プレートを使うことがほとんどです。

動物の体に完全な直線は存在しません。

しかし、販売されているプレートは直線ですので、曲げる必要があります。

外側(画像の右)ほどではないですが、内側面(画像の左)は少したわんでいますよね

これにプレートを曲げて合わせなければいけません。

 

7.手術

術後管理・骨癒合評価

さて上記のことを考えて望んだ手術の結果です。

しっかり結果を受け止めて、反映して、次に生かします!

 

見るべきポイント

骨折面の整復

スクリューの長さ(皮質を噛んでいるか)

関節内にスクリューが入っていないかどうか?

このような項目を4Aと言います。

  • [Alignment]回旋、屈曲、長さなど骨が正常軸を保った形であるかどうか、遠位近位関節面同士が並行かどうか
  • [Apposition]骨折端あるいは骨折片の相互の位置関係つまり骨折端骨皮質の接着度の評価
  • [Apparatus]インプラントなどの固定器具、プレート固定であれば、スクリューとプレート、創外固定であれば、ピン、クランプ、コネクティングロッドの評価を行なう
  • [Activity]骨の生物学的活性。一般に多くの骨折は12〜16週で癒合するが、骨癒合までの時間は動物の年齢、障害の程度、感染の有無、固定方法、手術の侵襲などによって変化する。

術後はこの4つを2方向からレントゲンをとって確認することになります。

 

メモ

今回は、プレートの長さ、スクリューの長さ、骨折面、関節面、全て良さそうですね。

 

1ヶ月を過ぎた時点で、骨のリモデリングも終わってきたのでスクリュー・プレートを抜きました。

骨折面がなくなっているのがわかります。

スクリューを抜いたところが黒くなっていますね。

これも1ヶ月も立てば白くなります。

さらに2ヶ月後、今度は両方の足をとっています。

これは上記の成長板骨折で成長板に障害を受けて左右の足の長さが変わっていないかを確認するためです。

もうほとんど左右の差がわかりまんね。

また、骨の長さも左右で差がないので、これにて検診終了です。

ここに注意

左右の骨長差は20%違うと破行が生じる

最後に

いつスクリューやプレートを抜くか

小型犬であれば、プレートは抜かないことが多いです。

しかし、ストレスシールディングと言って、プレートを入れると、

注意ポイント

ほとんどの体重の負荷=負重がプレートを介してしまうと、骨がサボって痩せてしまいます。

これを防ぐために、あえて固定強度を落とし、自分の骨で体重を支えてもらうようにします。

これを間引き、一部のスクリューを抜く、ディスタビライゼーションと言いいます。

抜くスクリューは、最遠位と最近位以外を抜くことが多いです。

プレートを全部取ってしまうと、再骨折してしまうこともあるので、プレートと最近位、最遠位のスクリューは抜きません。

ここに注意

ただし、成長板骨折、飼い主の希望、寒い地域、イタリアングレイハウンドなどの前肢の組織が薄くプレートで皮膚が盛り上がる場合は段階的に抜くことが多いです。

今回は若く、成長期で早期に癒合が達成するため、またキャバリアと中型犬であったことから全抜去しました。

上記を参考に、レントゲンで評価し、スクリューを抜くタイミングを決めることが多いです。

スクリューを抜いて、抜いたスクリューの穴が埋まっていた場合は、プレートを抜くか、再診終了にすることが多いです。

 

 

 

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