一方で、治療法は手術をしないと運動機能の良好な改善は認められないという病気でもあります。
手術方法はラテラルスーチャーとTPLO(脛骨高平部水平化骨切術)があります。
ラテラルスーチャーでは術後の運動制限が厳しいため、TPLOが普及してきました。
さらにTPLOは、クッキングオペとも言われ、適切な器具さえ揃えれば誰でもできるというメリットがあります。
手術は、この人にしかできないというのも重要ですが、それよりもどこでも、誰でも、同じクオリティの手術を受けることができることが重要です。
TPLOのセミナーは以前と比べると、かなり増えました。
セミナーを受けて、器具を揃えて、症例が来て、いざしようとなったときに一番つまづくところ、
それは出血するということだと思います。
前十字靭帯断裂の手術の失敗ポイント、リスク、合併症としては、骨切り、出血、脛骨粗面の骨折です。
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本記事では、TPLOという手術の中で、最も気をつけるべき脛骨粗面の骨折について解説します。
脛骨粗面が折れると、足を曲げることができなくなり、歩けなくなります。
これは、TPLOの手術の中で重要な仮固定という作業の中で、ピンを刺入することによって、術後に起きてしまう合併症です。
この骨折は、TPLOの失敗、合併症の中で最も代表的なものの一つですが、防ぐことも可能です。
犬の前十字靭帯断裂の手術で失敗するポイントは限られています。
実際に手術を数多くやってきた経験から、特に骨折しないポイントに焦点を当てて、
失敗しない、前十字靭帯断裂の手術方法をまとめてみました。
こんな方におすすめ
- 前十字靭帯断裂の手術で、脛骨粗面の骨折のリスクを知りたい獣医師
- 前十字靭帯断裂の手術で、脛骨粗面の骨折を回避する方法を知りたい獣医師
- 前十字靭帯断裂の手術の失敗・合併症のリスクを知りたい飼い主
ということがわかるので、ぜひ最後までお読みください。
私は、現在は獣医師として、主に整形外科手術を担当にして、働いています。
詳しくは、『プロフィールや獣医師そらんの手術歴』をお読みください。
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管理者のプロフィール
こんにちは、獣医師そらあんです。 この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、 論文発表や学会での表彰経験もあります。 今は海外で獣医の勉強をしながら、ボーダーコリー2頭 ...
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Contents
犬の脛骨粗面とは?
機能
膝蓋靭帯付着部
頭側に飛び出した三角形の形をしている
内側は平面で、外側は窪んでいる
その外側面には、前脛骨筋が付着している
犬の前十字靭帯断裂の手術:TPLO
・脛骨近位部に放射状の骨切り
・脛骨高平部を含む近位骨片を尾側方向に回転
ポイント
脛骨高平部の傾斜を水平に矯正
・特殊なインプラントを使用
ポイント
後肢の負重時に発生する脛骨の前方への推進力を制限
前十字靭帯断裂の手術での脛骨粗面のアプローチ
前十字靭帯断裂の手術:TPLOでは骨切りを行います。
この症例は、前十字靭帯断裂でしたので、TPLOを実施しました。
術前と術直後のレントゲンです。
TPAやプレートの位置は問題なさそうだけど、腓骨は折れております。
また、脛骨粗面のピンの刺入位置が遠位であやしいです。
脛骨高平部を含む近位骨片を尾側方向に回転したあとに、仮固定として、ピンを脛骨粗面の頭側から刺入します。
注意ポイント
ピンを入れる位置が非常に重要で、後に脛骨粗面骨折を引き起こすことになります。
前十字靭帯断裂手術の時に気をつける脛骨粗面骨折
脛骨粗面は非常に細いです。
その細いところにピンを入れますので、
特に小型犬5kg以下は術後に脛骨粗面が折れることがあります。
また、仮固定と入っても、ピンがしっかり骨を貫通して噛まないと、グラグラして仮固定の意味がありません。
仮固定っをする中で、限りある細い脛骨粗面を、ピンで何回も刺してしまうと、穴だらけになり
弱くなって骨折してしまいます。
ピンは大型犬でも小型犬でもおおよそ、1.25mmという細いピンを使用します。
ここの仮固定は、細いピンを一回で、しっかり決めることが重要です。
犬の前十字靭帯断裂の手術:TPLOで注意すべき脛骨粗面の解剖
まずは脛骨粗面に、膝蓋靭帯がどの様に付着しているかを見つける必要があります。
膝蓋靭帯は、脛骨粗面のにこの赤色の様に、膝蓋骨から付着しています。
しかし、この赤矢印のところ=脛骨粗面のトップよりも近位は膝蓋靭帯が付着していません。
つまりここで問題なのは、脛骨粗面が折れると、膝蓋靭帯に引っ張られて、足を曲げることができなくなることです。
脛骨粗面の骨折も、事故で起こり得ますので、機になる方は下記の記事もどうぞ!
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ポイント
脛骨粗面のトップより近位は折れても安全!
犬の前十字靭帯断裂の手術:TPLOの合併症、リスク、失敗:脛骨粗面の骨折
術後1ヶ月のレントゲンです。
足はついているとのことでしたが、レントゲンをとてみると、見事に折れていますね。
腓骨や脛骨尾側の骨切ラインは、やや骨膜反応が認められて癒合しようとしていますね。
脛骨粗面が折れている時は、この様に、足を曲げた状態と、伸ばした状態でレントゲンをとります。
足を曲げた時は、膝蓋靭帯は引っ張られているので、この距離が広がります。
骨折の時などの、わずかな変位もこの方法を行うと検知しやすいです。
拡大すると、間隔が開いているのが分かりますね。
ちょうどピンを打った穴から折れて、脛骨粗面が、靭帯に引っ張られています。
治療方法は、常法のテンションバンドワイヤーです。
少し距離が縮まりましたね。
テンションバンドワイヤーはテンションを圧着力に変える方法ですので、
テンションがかかればかかるほど、圧着してくれ、距離が縮まります。
犬の前十字靭帯断裂の手術:TPLOで脛骨粗面を骨折させないために
上記より脛骨粗面が重要なポイントとして、
- 足の屈伸運動に重要
- 脛骨粗面が付着している部分がある
- 細くなっている
対策として、
- 細いピンを使う(1.25mm)
- ピンを抜かずに残したままにする
- 仮固定する際に1回で決める(技術に依存)
- 折れてもいい様に、脛骨粗面のトップよりも上からピンを刺入する
教科書通りにピンを入れると、青色の線の様に推奨されています。
いかし、これでは脛骨粗面がより細い犬は折れてしまいます。
ここから折れてしまうと、脛骨粗面が膝蓋靭帯に引っ張られてしまいます。
ですので、理想は、万が一折れてしまってもいいように、黄色い線の様にピンを入れて
仮固定することが、TPLOの合併症を少なくするリスク回避となります。
本ブログでは、詳しく知りたい飼い主、獣医学生、進路や勉強に悩んでいる獣医師向けに、
出来る限り詳細に書いていますので、ぜひ他の記事もお読み下さい。
参考になれば嬉しいです。ここまでお読みいただきありがとうございました。