腫瘍外科

腫瘍の診断のため細胞診を獣医が解説

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腫瘍の診断のために細胞診を獣医が解説

腫瘍の診断のために

標本の観察

  1. 検体情報の把握
  2. 肉眼および弱拡大で標本の質細胞の数、分布をみる
  3. 中拡大で細胞の種類、並び方を見る
  4. 強拡大で細胞の異型度(悪性度)を見る
  5. 総合診断・予後判定

 

①検体情報の把握

  • まず、臨床経過を含む検体の情報を見る

臨床情報だけである程度の診断が可能な場合があるので、

まずこれらの情報から可能な診断名の候補をいくつか思い浮かべる

 

  • 症例の動物種,品種、性(避妊、去勢の有無)、年齢、体重、臨床経過(既往歴)、治療の有無(治療している場合にはその種類、期間など)、臨床データ、材料の採取部位、採取方法

例えば

犬の皮膚腫瘍の中で、若齢犬に多い皮膚組織球腫は皮膚表面からドーム状に盛り上がっている場合が多い

毛芽細胞腫は有茎茸状の形態を示す場合がある

老犬の皮膚に多く発生する皮脂腺腫または皮脂腺上皮腫は全身に多発する傾向が高い

採取部位が体内の場合はX 線像、CT像、超音波像

例えば

  • 腹水の場合だと、異型上皮細胞がみられたとする。
  • 腹腔内の情報が何もない場合、悪性腫瘍と診断できてもどこが原発かわからない。
  • 胃癌、腸癌、肝癌、膵癌、腎癌などがある。

 

②肉眼および弱拡大で標本の質細胞の数、分布をみる

次に標本を顕微鏡で観察するが,まずは弱拡大で標本の質、塗抹細胞の数、分布などをみる

→適度に分布している所の方が個々の細胞の形態がよくわかる

一般に悪性腫瘍の標本では細胞数が多い。しかし線維組織由来の腫瘍は細胞数が少ない。

 

③中拡大で細胞の種類、並び方を見る

拡大をやや上げて、細胞の種類・並び方を観察する

塗抹細胞

多種類の炎症細胞が観察される                炎症性の場合

概ね1 種類で、若干の炎症細胞が混じることもある        腫瘍の場合

 

※過形成性細胞と腫瘍との区別

臨床所見から明らかに癌が疑われる場合や悪性細胞が存在する場合は簡単だが、通常は非常に困難

一般的に過形成では分化した細胞(正常細胞)が増殖している

腫瘍であると判断できたら次に上皮性か非上皮性か診断する

 

細胞の並び方

互いに接着する傾向が強く塊状,リボン状,索状に塗抹される  上皮性細胞

接着が弱く個々の細胞がばらばらに塗抹される         非上皮性細胞

 

1.炎症

一般的に炎症の塗末は血液、白血球を主体(マクロファージも)とすることで、

ほかの細胞が混じってもその方向に偏らない

好中球+少ない大型の単核細胞                           化膿性炎症

好中球+小リンパ球+マクロファージ+線維芽細胞                  肉芽腫性炎

好中球+好酸球                                  アレルギー性炎症

 

このほかにも好中球のほかに、リンパ球が多く含まれていればリンパ小節に関連した化膿性炎症を違うことができる。

これ以外の細胞が混じっている塗抹標本であっても、採材した場所、動物種、年齢などの他の情報を加味すると診断ができる。

ex) 猫伝染性腹膜炎の腹水では、リンパ球、好中球、マクロファージ以外の細胞も見られるので一般的な炎症とは異なることはわかる。

そこに猫であることや腹水があるなどの情報を加えることで診断が可能になる

 

2.腫瘍の場合
  • 上皮性腫瘍

集塊状で細胞相互接着性がある

細胞層が間質結合組織に境された胞巣構造をとる

→悪性化とともに結合性は低下

 

ex.)          良性                     悪性

被覆上皮  基底細胞腫・乳頭腫・移行上皮乳頭腫     扁平上皮癌・移行上皮癌・基底細胞癌

腺性組織    肛門周囲腺腫                    乳腺癌

 

細胞集塊のパターン

 

  • 非上皮性腫瘍(離散円形細胞・間葉系)

細胞結合性を示さない

孤立散在分布を示す

紡錘形を示すものが多い(血液由来腫瘍、組織球由来腫瘍は円形)

ex.)線維組織、筋肉組織、神経組織、骨・軟骨組織・血管・リンパ管、脂肪組織、血球・リンパ球

メラニン色素産生組織、体腔被覆組織(中皮、滑膜)

 

 

④強拡大で細胞の異型度(悪性度)を見る

さらに拡大をあげ,細胞の異型度,悪性度を調べる

悪性細胞                      良性細胞

細胞質、核が大小不同で形もいびつ          細胞質,核の大きさと形態がそろって、

核の形態も変化に富んでクロマチンは粗造       異型度が低い

核小体は明瞭で,複数存在するものもある

異型核分裂像が認められる

 

標本の観察のポイント

  • 良質の標本であること
  • 標本の採取方法について十分な記載があること

⑤診断 総合診断・予後判定

a.診断のポイント

  • 細胞診の所見には、どんな細胞がどのくらいみられるか
  • 細胞の形態はどうか
  • 異型度(悪性度)はどのくらいか

b.診断の手順

まず以下の特徴的な腫瘍病変にあてはまるかを判定する

  • 皮膚組織球腫、肥満細胞腫、猫リンパ肉腫、犬リンパ肉腫
  • 中皮腫、肛門周囲腫、血管周皮腫、メラノーマ
  • 皮膚乳頭腫、脂肪腫、毛母腫、猫の乳腺腫瘍
  • 扁平上皮癌、皮脂腺種、基底細胞腫、線維肉腫

決まった部位から採材する腫瘍の場合

犬の乳腺腫瘍や肝臓癌などの内臓の腫瘍は採取した部位が分かるため後は良性か悪性かを決める

c.細胞診の症例

(1)化膿性炎
  • 好中球(変性・死骸)のみからなる
  • 多くの好中球は崩壊しており、原形を留めていない
  • 多数の好中球及びその崩壊物が塗抹されている
  • 一旦血管外に出ると浸透圧、pHも変化し物理的な圧迫もあって核が丸くまとまることもある
  • 若齢犬・猫の脂肪組織やリンパ節でも好中球は多くみられる
(2)肉芽腫性炎
  • マクロファージ及びそれが変化して生じた類上皮細胞を主とした炎症性変化である.
  • 広い細胞質を持つ類上皮細胞、貪食空胞を持つマクロファージ、リンパ球、形質細胞がみられる
  • この出現細胞の多様性は炎症性変化を表している
  • マクロファージ、類上皮細胞、好中球、リンパ球、形質細胞など様々な種類の炎症細胞が塗抹されるが、これらの細胞に異型は認められない
  • マクロファージは泡沫状の細胞質を有し、淡青色に染まるが、積極的に増殖する時は青色に近く、ドン食によっても染色性が変化する
  • 炎症反応中にマクロファージが多量にあれば急性の炎症か、一部で活動性の炎症が続いていることを示している
(3)扁平上皮癌
  • 大小不同で異型度の高い上皮性細胞が見られる
  • 細胞の核は大きさ・形に異型が多く、核クロマチンも疎に凝集している
  • 腫瘍細胞も角化の過程を踏み核が小さくなる
  • 二核を有する細胞がみられる
  • このような変化は悪性細胞の特徴で、異型度の高い角化細胞が塗抹される
  • 細胞の形は大型類円形、楕円形などで細胞質は広い
  • 数個~10個程度まとまって塗抹されるのが普通で、シート状のものが多数存在することはない
  • 扁平上皮細胞の小塊を見れば扁平上皮癌と考えてもいい
  • 扁平上皮癌は表皮の構造を作りながら成長するので表皮基底層に相当する細胞から最表層の角下層までの核成熟段階の細胞を含んでいる
  • 全体がとても未分化なものでは細胞の種類は少なく暗調に染まるものが多いが、分化がよいものでは殆ど染まらない細胞から濃青紫色の細胞までいろいろに染まる
  • このため扁平上皮癌の塗末では炎症を伴い、細胞破砕物や細網線維を伴っている
(4)皮脂腺腫瘍
  • 良性の皮脂腺腫瘍(皮脂腺腫)は老犬の皮膚に単発または多発する
  • 腫瘍細胞は正常皮脂腺細胞に類似し、細胞質に脂肪を大量に含むので空胞化細胞が塗抹される
  • 皮脂腺腫細胞は細胞質に多数の小脂肪滴を含み明るく見える
  • 塗抹標本上で細胞質が明るい細胞がそろっていれば皮脂腺腫の可能性が高い
  • また隣接する細胞との結合性が強くバラバラにならない 最低でも2個連なっている
  • 悪性腫瘍(皮脂腺癌)では,腫瘍細胞内の脂肪は少なくなるが,大きさ・形の不同,核異型など悪性細胞の特徴がみられる.

皮脂腺腫 正常の皮脂腺上皮細胞に類似した細胞の塊.細胞質に小型の脂肪滴を含む.

皮脂腺癌 多量の赤血球と異型細胞の塊がみられる.細胞質内の脂肪滴は少ない.

(5)毛母腫
  • 毛母腫は毛根基部の毛原器(毛母)細胞が腫瘍化したものである.
  • 核が不明瞭な陰影細胞(shadow cell)の出現が特徴である陰影細胞塊が塗抹される
  • この腫瘍は嚢胞状であるので穿刺すると壁の腫瘍細胞ではなく、嚢胞の内容物である角化物を吸引してしまうので、毛母腫の細胞を見ることが殆どできない
  • 角化物は断片が集合した物、膜状、布状などであるが症例ごとに異なる
  • 不完全角化のまま嚢胞壁から剥離して完全角化に向かっている状態の物が塗抹される
(6)悪性黒色腫
  • 悪性黒色腫の最大の特徴は細胞質内に黒褐色のメラニン顆粒を有することであるが,未分化な悪性黒色腫では
  • これをもたないことがある
  • 細胞の形態は多様で,上皮(隣接細胞との接触性)と非上皮(隣接細胞との非接触性)の性質を合わせ持つ
  • 黒褐色のメラニン顆粒を有する細胞が数個塗抹される
  • メラニン顆粒を含有した細胞が見られ細胞外にも顆粒が散在する
  • 細胞の形は短紡錘形、不整円形、全くの不整形で、核は楕円形から類円形
  • 細胞質は本来淡い空色に染まるが顆粒で見えないこともある
  • 異型性が明瞭だと、種々の形大きさの細胞が集塊を作ってメラニンを含んでないように見える細胞でも細胞質は暗調
  • 細胞の形態は多型の類上皮型あるいは紡錘形で細胞境界は明瞭
  • 大型核を持ち核分裂像も見られる
  • 但し、メラノーマは悪性になるほど顆粒産生が少なくなり、全く顆粒の無い無顆粒性メラノーマになることもある
  • 顆粒がなくても著しい多形を示す円形核細胞がある場合はメラノーマが疑える

 

(7)血管周皮腫
  • 血管周皮腫は中年齢犬の体幹部から上腕部に発生する非上皮性腫瘍である
  • 細胞の形態は紡錘形から勾玉形で,散在性に塗抹される
  • 塗抹の特徴と発生部位を考慮して診断される
  • この腫瘍では2種類の形の細胞が出現する

1.短い細胞:短紡錘形多角形などがあり、細胞質が比較的広い 核の形は殆ど楕円形

多核細胞が見られ大きさは一定である

2.長い細胞:細く長い細胞質を引きずるように塗抹される 多核で楕円形核が見られる

線維芽細胞との鑑別が問題だが、血管周皮腫では多くの細胞中に短紡錘形核が殆どない

 

(8)脂肪腫瘍
  • 良性腫瘍(脂肪腫)では細胞質内に多量の脂肪が沈着している
  • 悪性腫瘍(脂肪肉腫)では脂肪沈着の程度は減少するが、かなりの量が沈着している
  • 脂肪腫 大型で重度に空胞化した細胞塊が塗抹されている
  • 脂肪肉腫 小型から中型の脂肪滴を有する細胞が多数塗抹されている.
  • 脂肪腫は 1.脂肪の網様織と2.脂肪細胞からなる
  • 脂肪組織は網様構造の網目に脂肪細胞が入っている・脂肪腫はこの網様構造が発達することで全体が発達する
  • 塗抹では円形膨満した脂肪細胞が1個ずつ散在してることが多い・

脂肪腫には一般的な脂肪腫と浸潤性脂肪腫があり、後者で脂肪細胞が多く出現する

(9)肥満細胞腫
  • 細胞質内に異染性(染色に用いた色素の本来の色とは異なる色で構造体が染色される)の顆粒を有する
  • 肥満細胞腫の場合は細胞質内のへパリン含有顆粒がトルイジンブルーなど青色色素により赤紫色に染色される
  • 但し、未分化な肥満細胞腫の場合には脱顆粒によって異染性顆粒がなくなっている
  • 細胞質内に異染性顆粒を充満する円形細胞が塗抹されている.
  • 核は円形で陥凹形の物は全くなく、顆粒はギムザ染色で紫に染まる
  • 顆粒が少ないものでも他の視野でみれば必ず顆粒を確認できるものがある・背景に顆粒が散らばってるものもある
  • 症例によって全体が赤っぽく染まったり全く染まらなかったりするが、これは滲出液の性状による
(10)リンパ節反応性過形成
  • 良性のリンパ節腫大病変として,リンパ節反応性過形成(急性リンパ節炎)がある
  • リンパ球、形質細胞、マクロファージ、好中球など様々な種類の細胞が認められる
  • 塗抹されているリンパ球に異型はなく、形質細胞は卵型をしており核が細胞質の一方に偏って存在している
  • リンパ節の塗抹標本を見ることはリンパ肉腫かそうでないかをみること
  • 過形成の場合多種類の細胞が出ている
  • リンパ節は急速にリンパ球の産生を必要とする場合は大型のリンパ芽球が作られる
  • このため塗抹中に大型のリンパ芽球が現れるが、腫瘍性と違い大型のリンパ芽球が4~5も隣接することはない
  • リンパ肉腫との鑑別点は、リンパ芽球が数の上で50%でかつ隣り合って多数みられればリンパ肉腫である
(11)悪性リンパ腫(リンパ肉腫)
  • 悪性腫瘍性のリンパ節腫大病変
  • 塗抹される細胞のほとんどが異型リンパ球
  • 大きさは様々で、同一種類の細胞(異型リンパ球)が塗抹されている
  • 細胞と核の形が円形なのが特徴で一般にN/C比が高い
  • 核小体も大型で濃染、異型性が強い
(12)骨肉腫
  • 骨質をつくる骨芽細胞由来
  • 短楕円形または短紡錘形の異型非上皮性細胞が散在性に塗抹される
  • 病変に骨基質が多いと塗抹される細胞は少なくなる
  • 類円形核を持つ小型の異型細胞が散在性に塗抹され、しばしば多核の破骨細胞を認める
  • 細胞の大小が著しく、N/C比が異常に高い
  • 核が偏在している:これは分泌機能を持っている細胞にもあてはまる(骨芽細胞は類骨を作る基質を分泌する)
  • 細胞質に透明感がなくギムザ染色すると青灰色から藍青色になり、少し濁った感じになる
  • あまり多くの細胞が塊状にならず、背景にゴミのようなものが染まってくる
(13)犬の乳腺腫瘍
  • 良性腫瘍として乳腺腫と乳腺混合腫瘍がある

前者では異型度の低い上皮細胞が塊をつくって塗抹される

混合腫瘍は筋上皮細胞の増殖を伴っているので見分ける必要がある

筋上皮細胞の増殖巣は類粘液化生や類軟骨化生を伴う

類粘液に変わったものでは、細胞塊の中や周囲に橙紅色のもやもやしたものが見られ、細長い核と一緒であれば筋上皮細胞の塊である

塗抹全体でみれば腺上皮の増殖塊があってその中に筋上皮の増殖塊がある

後者の場合には軟骨基質の産生を伴うことが多いので標本にもそれが塗抹される

上皮細胞に加えて円形のマクロファージが見られることがある

  • 悪性腫瘍(乳腺癌)の場合は異型度の高い上皮性細胞が塊状または散在性に塗抹される

小さな塊状として塗抹され、N/C比が高い円形核で丸みを帯びた細胞で、大小不同がある

また、染色性が異なる

良性悪性の区別は全体を見渡すことが必要

 

(14)肝細胞癌
  • 多角形の大型上皮細胞が塊状に塗抹される
  • 高分化型では,塗抹された腫瘍細胞は正常肝細胞と区別がつかないことが多い
  • 細胞質に富む大型の上皮細胞が観察され、大小不同で核異型も高く、肝細胞癌としては高悪性度の症例
  • 低分化型では未成熟な細胞が多く、細胞の核に大小不同がある
  • 核正体は明瞭で、濃染、核膜に厚みがある
  • 癌化した細胞では丸みを帯びている
  • 塗末だけで肝細胞癌を診断するのはこんなので臨床的に肝臓の一つの葉に塊状増殖があることを確かめる必要がある

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