犬と猫の神経疾患ってよくわからない。
犬と猫の神経学的検査って難しそう。
犬と猫の神経の病気は苦手...
足が痛そう...だけどどう検査したらいいかわからない
わからない症状を、神経の病気にまとめてしまってる。
犬と猫の神経の病気を得意になりたい!
犬や猫の神経疾患に興味があるけど、どうやって勉強したらいいかわからない。
神経疾患はややこしいですが、神経ー筋肉、神経ー中枢神経・末梢神経の分類の基礎がしっかりしていれば、場所の特定は比較的簡単で、見逃すことはありません。
神経学的検査は、技術・知識さえあれば、場所を選ばずに
動物に負担をほとんど与えず、神経の病気の場所がわかる、
非常に優れた確立された検査です。
この機会に、なかなかとりつきにくい、神経学的検査をマスターしてしまいましょう。
こんな方におすすめ
- 獣医神経疾患に興味がある
- 犬と猫の神経疾患の勉強をはじめてみたい
- 犬と猫の神経学的検査がよくわからない
- 犬と猫の神経学的検査に不安がある
ということがわかるので、ぜひ最後までお読みください。
私は、現在は獣医師として、主に整形外科手術を担当にして、働いています。
以前は東京大学で勤務し、学会でもアワード賞をいただきました。
その際に勉強になったおすすめの教科書をご紹介します。
詳しくは、『プロフィールや獣医師そらんの手術歴』をお読みください。
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管理者のプロフィール
こんにちは、獣医師そらあんです。 この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、 論文発表や学会での表彰経験もあります。 今は海外で獣医の勉強をしながら、ボーダーコリー2頭 ...
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Contents
獣医師必見!獣医師解説!犬と猫の足の麻痺の検査:神経学的検査とは
神経学的検査
神経学的検査は神経症状を示す動物に対して実施すべ き、最も基本的かつ重要な検査です。
神経学的検査の目的は、神経疾患か否かの判断および原因疾患の病変部位の特定です。
神経学的検査は、通常、観察(視診)、触診、姿勢反応、脊髄反射検査、脳神経検査、排尿の評価、および感 覚検査からなり、それぞれの検査を系統立てて実施します。
いずれの検査においても動物ができる限りリラックスし た状態で行うことが重要です。
したがって、検査の順番は、痛みを伴うなど嫌がる可能性が高い検査は最後に行います。
検査の結果は神経学的検査表に記入し、 病変を特定します。
上記の「神経学的検査表」は、獣医神経病学会ホームページ(http : //www.shinkei.com)から ダウンロードが可能です。
神経の疾患の診断には、現在、獣医療域においても、CTやMRIによる高度画像診断が普及しつつあります。
しかし、これらの触診なしに、全ての部位でMRI検査を行うことは、麻酔時間や動物の負担も余計にかかってしまいます。
画像診断を駆使して診断を行うには、事前の仮診断、触診での神経学的検査による部位の特定が非常に有用になります。
神経の病気は、犬種、品種、問診、経過、触診でほとんど病気がわかります。
MRIはあくまで確認に過ぎません。
ポイント
だからこそ、場所を選ばずに、少ない検査機器で、動物に麻酔などの負担なく、技術だけで実施できる神経学的検査を習得することは非常に有用です。
正しい神経学的検査を習得して、その結果の意味を理解して、苦手意識をなくしましょう!
現役臨床獣医師による神経学的検査の解説
1.検査環境・必要な道具
検査環境は、動物がリラックスできる場所で行います。
歩様を確認するために平坦で滑りづらい屋外 を歩かせる必要もあります。
また、リードなどを外した状態で自由な行動を観察するため、滑りづらい床の閉鎖できる室内空間も必要です。
さらに検査台に動物を載せて 検査する際には、検査台の表面は滑りづらい状態(ゴムマットを敷くなど)とする必要がです。
道具としては、打診槌、鉗子、ペンライトなど対光反射(後述)を確認するための光源、乾綿、綿棒などです。
2.実際の検査方法
1)動物の観察(視診)
まずは、動物を自由な状態にして行動を観察します。
意識状態
- 正常
- 傾眠(眠りがちだが、覚醒時は正常)
- 昏迷(強 い刺激で覚醒するが、刺激なしでは眠ってしまう)
- 昏 睡(強く刺激しても覚醒しない)
ポイント
意識の異常は、大脳、 間脳、脳幹の異常を示唆します。
知性・行動
飼主の呼びかけ、手をたたくなど、周囲からの刺激に対する反応などを見ます。
その場から動かない場合は盲目を示唆します。
今まで学習していた行動ができなくなったなど、飼主からの情報も重要です。
ポイント
知性・行動の異常 は大脳の異常を示唆する。
姿勢
静止時における頭部、体幹、四肢の状態を評価します。
- 捻転斜頚(水平面に対して頭部を左右のいずれかに傾ける、前庭病変を示唆)
- 頭部回旋(鼻先が体幹の 左右いずれかを向いている、前庭病変を示唆)
- 常に横臥、伏臥、座位、頭部下垂などがあります。
歩様
必ず滑りづらい床で歩行をさせます。
動物の動き全体を観察できる方が異常を発見しやすいため、 屋外の広い場所が望ましいです。
飼主、あるいは助手に引き綱を引いてもらい、はじめにゆっくりと歩かせます。
注意ポイント
観察者は前後左右からそれぞれ観察します。
そのため、何度も 往復させる場合もあります。
ついで速足、駆け足で観察します。
猫や性格上、引き運動が不可能な動物では、閉鎖空間内で自由に歩かせます。
参考
特に猫は、進行方向に入り口を開けたケージを設置してあげることで、そこに向かって歩く様になります。
観察のポイントは以下の通りです。
自力起立・歩行の可否
運動失調
- 固有知覚異常による失調(四肢のナッ クリングやクロスなど)
- 小脳異常による失調(測 定過大など)
- 前庭異常による失調(旋回、転倒、 回転)
随意運動能
- 麻痺は随意運動能が完全に失われた場合
- 不全麻痺は一部残っている場合
歩幅
前肢と後肢、左側と右側で比較
肢の挙上
肢端の先を着地させようとしない場合、 疼痛を示唆
不随意運動
振戦(いわゆる震え)、部分発作の有無を観察します。
2)姿勢反応
姿勢反応とは起立状態を保つための反応です。
姿勢反応の評価は、
- 0:消失(全く反応がない)
- 1:低下 (反応に遅延が認められる)
- 2:正常(直ちに 反応が認められる)
で標記します。
固有位置感覚(固有知覚反応)
肢端をナックリング(甲を地面に着ける)させ、動物が直ちに正常な位置(フットパッドを地面に着ける)に 戻すことができるかを評価します。
神経系異常の検出感度が非常に高い。
一方、肢端の負重によっても同様の動きをするため、
特に自力起立が困難な動物では、
動物の体重を支えて正常な起立位に近い状態を保ちながらナックリングさせることが重要です。
触覚性踏み直り反応
動物を抱きかかえた状態で、動物の視覚を遮り、一肢の甲を診察台の角などに触れさせ、動物が直ちに診察台 の上に肢を載せる(踏み直る)ことができるかを評価します。
視覚性踏み直り反応
動物を抱きかかえた状態で、動物に診察台を視覚によ り確認させ、動物が直ちに一肢を診察台の上に肢を載せる(踏み直る)ことができるかを評価します。
盲目の動物は反応できません。
反応が弱い犬や猫では、足の外側や内側を診察台に当てたり、角度を変えます。
ポイント
後肢の場合は、起立状態で後肢だけを犬と自身の間の診察台から落とすと、犬を抱えなくても検査可能なのでやりやすいです。
跳び直り反応
動物を一肢のみで体重を支える様に保持し、外側あるいは内側に体軸を傾けた際に同時に跳び直り、姿勢を保 持できるかを評価します。
立ち直り反応
動物を横臥させ、直ちに起き上がることができるかを 評価します。
左側横臥および右側横臥ともに評価します。
3)脊髄反射
脊髄反射とは、大脳皮質を経ないで、脊髄にある反射中枢を介して起こる反射のことです。
1回の打診に対 して、1回の収縮が現れます。
ポイント
脊髄反射は、反射弓、すな わち、感覚神経-脊髄分節-運動神経(下位運動 ニューロン:LMN)から構成されます。
脊髄反射には、後述する複数の種類が存在しますが、それぞれの脊髄反射において脊髄分節および神経が異なります。
脊髄反射が低下または消失している際には、 該当する脊髄分節や神経に異常があることが推測され、 病変部位の特定が可能となります。
また、脊髄反射が正常もしくは亢進し、かつその肢の運動機能や姿勢反射が異常であれば、病変は反射弓よりも頭側中枢(上位運動ニュー ロン:UMN)に存在します。
脊髄反射を評価する際には、正しい刺激を加える(正しい場所を打診する)ことが重要です。
誤った場所を打診しても反射は発現しません。
検査者により容易に検出できる反射と検出が困難な反射があります。
比較的、多くの検査者が反射を検出できる、有用な反射検査としては、 後肢では膝蓋腱反射と屈曲反射、前肢では橈側手根伸筋反射と屈曲反射、および会陰反射である。
反射の評価は、0:消失、1:低下、2:正常、3: 亢進、4:クローヌスで標記する。
クローヌスとは、1 回の打診に対して、筋肉の収縮と弛緩が交互に何度も生じる状態であり、反射亢進の状態です。
膝蓋腱反射
膝蓋腱反射は動物を横臥位にし、膝関節を軽く屈曲さ せた状態で膝蓋靭帯を確認して打診槌で軽く1回叩きます。
正常な場合は、大腿四頭筋が収縮し、膝関節が1回伸展します(キックするような動き)。
注意ポイント
膝蓋骨脱臼など、膝蓋靭帯に異常がある場合には反射を誘発できない場合があります。
屈曲・(ひっこめ)反射
前肢および後肢で行います。
動物を横臥位にし、四肢を軽く伸展させて肢端を軽くつまみます。
正常であれば各関節が屈曲します。
会陰・肛門反射
会陰部あるいは肛門を鉗子などで軽く刺激し、肛門括約筋の収縮、尾の屈曲を観察します。
橈側手根伸筋反射
横臥位にし、手根関節を軽く屈曲させた状態にし、橈 側手根伸筋の筋腹を打診槌で軽く叩きます。
正常であれば手 根関節が軽く伸展します。
膝蓋腱反射と比較すると誘発が 難しいです。
皮筋反射
動物を起立させて腸骨翼頭側から各棘突起における傍正中の左右皮膚を鉗子で軽くつまみます。
正常であれば、左 右それぞれの体幹皮筋が収縮します。
収縮が認められない場合は、収縮が認められるまで尾側から頭側方向へ上記 のように皮膚をつまんでいきます。
ポイント
脊髄においては、通常、 皮筋反射が出現した部位からおよそ3椎体前までの範囲 に病変が存在します。
4)脳神経検査
脳神経検査は脳神経の機能を評価する検査です。
したがって、頭蓋内に異常が存在しても脳神経に影響をおよぼさなければ、脳神経検査は正常です。
また、脳神経は感覚器および運動器、すなわち末梢と脳を連絡しています。
したがって、末梢に異常が存在した際には脳神経検査は異常となることがあります。
脳神経検査では細かいな外貌や反応の違いなど、微小 な左右差も見つける必要があります。
注意ポイント
動物の正面に位置して検査を実施します。
顔面の対称性
顔面筋の萎縮、腫脹および左右の対称性、いわゆる「ゆがみ」を観察します。
観察ポイントは側頭筋、咬筋、 耳介、眼瞼裂、 鼻孔、口唇です。
眼瞼反射(三叉神経→脳幹→顔面神経)
内眼角を触り、瞬きするかを観察します。
角膜反射(三叉神経→脳幹→顔面神経:瞬き/外転 神経:眼球後引)
角膜に軽く触れた際に眼球が尾側に引っ込み、瞬きするかを評価します。
威嚇まばたき反応(視覚経路→大脳皮質→小脳→脳 幹→顔面神経)
動物の目の前に手をかざして瞬きをするかを評価します。
片方ずつ行うが、威嚇時に睫毛に触れたり、角膜に手をかざす際の風があたらないように注意します。
瞳孔の対称性(視神経→脳幹→動眼神経/交感神経)
瞳孔の大きさと左右対称性を観察します。
異常が認めら れた際には眼球の問題も検討します。
斜視(動眼/滑車/外転神経)
眼瞼裂に対する眼球の変位を観察する。通常は外眼筋 の異常により斜視が生ずる。外腹側斜視は頭蓋骨、特に 眼窩の変形により生じることがあります。
眼振(前庭系:内耳神経/橋/小脳の一部)
眼球のリズミカルな不随意運動の有無を評価します。
眼振の様式および急速相(早く振れる方向)を表記します。
水平眼振:左→右/右→左方向の眼振、「左→右」 方向が「右→左」方向よりも早く振れた場合には「右 急速相」と表記します。
垂直眼振:上→下/下→上方向の眼振、「上→下」 方向が「下→上」方向よりも早く振れた場合には「下 急速相」と表記します。
回転眼振:眼球が回転運動するように動きます。
振り子眼振:一定速度で振り子のような往復運動をします。
頭位変換誘発性斜視・眼振(前庭系:内耳神経/橋 /小脳の一部)
動物の頭部を突然変位させた際に正常位では観察され なかった斜視や眼振が生ずることがあります。
例えば、頚部 を背側に屈曲させた場合、正常では眼球の方向も背側に動きますが、
前庭障害時には眼球が動かずに腹側斜視が認められます。
生理的眼振(前庭系:内耳神経/橋/小脳の一部、 動眼/滑車/外転神経)
動物の頭部を一定方向にゆっくりと動かすと、正常な 動物では頭部を動かした方向に眼球もついてくる。
対光反射(視神経→脳幹→動眼神経)
一方の眼球に光を当てて両眼ともに縮瞳が起きるかを 観察します。
ポイント
光を当てた側の瞳孔の反応を直接性、光を当 てていない側の反応を間接性といいます。
動物が興奮すると 瞳孔が散大するので、光に対する反応が鈍くなることが ある。
その際は、暗所でさらに強い光を当てて対光反射 を観察すると良い。
ポイント
異常が認められた際には眼球の問題 も検討します。
顔面の感覚(三叉神経→前脳)
動物の上顎もしくは下顎の犬歯付近の皮膚を鉗子で軽くつまんで反応をみます。
反応の消失以外は左右差を観察します。
鼻 孔に綿棒を入れた際の反応を観察します。
舌の動き・対称性(脳幹→舌下神経)
舌の位置や萎縮の有無、舌の動きを観察します。
飲み込み(舌咽神経/迷走神経→脳幹)
嚥下が行えるかを評価します。
普段の飲水、嚥下の状態 など飼主からの禀告が役立ちます。
異常があれば、「むせる」、 「こぼす」などの症状を認めます。
5)感覚
屈曲反射、皮筋反射の検査時における犬の反応をみます。
通常、動物が痛みを感じていれば、「刺激を嫌がる」「鳴く」などの明らかな反応を見せます。
表在痛覚
皮膚における痛覚の反応を「表在痛覚」といいます。
深部痛覚
メモ
四肢において表在痛覚が認められない 場合に限り、爪の根元を鉗子ではさみ(皮膚ではな く骨に対して刺激を加える)動物の反応を観察します。
骨に対する反応(痛覚)を「深部痛覚」といいます。
浅部痛覚、深部痛覚ともに注意する点は、「屈曲反射」と痛みから回避する行動を間違え ないことである。痛みを訴えることなく、肢を引っこめるのは反射であり、痛覚ではありません。
- はじめに表在痛覚を評価して消失を確認した場合にのみ深部痛覚を評価します。
- 止血鉗子を用いて皮膚やパッドではなく指の骨を鉗圧して骨膜に刺激を加えます。
- 鉗圧によりL4-S2脊髄分節に異常のない動物では屈曲反射は認めます。
- 疼痛に対する開始行動や交感神経の興奮(瞳孔サイズの変化)を示さない=深部痛覚消失
知覚過敏
脊椎の知覚過敏を評価します。
頚部では、
首をゆっくりと左右および上下に曲げてみます。
痛み がない場合には容易に頚部を屈曲できますが、痛みが ある場合には抵抗を感じます。
注意ポイント
その際はそれ以上無理矢理首を曲げてはいけません。
胸部~胸腰部~腰部に関しては、
片方の手を動物の腹部にあてがい、反対 の手で尾側から頭側に向かって脊椎の傍正中を圧迫し、
痛みが誘発されるかを確認していきます。
明らかな 痛みを訴えなくても、知覚過敏が存在する場合には、 腹筋に力が入ります。
尾側腰椎~仙椎の知覚過敏は、
- 尾をゆっくりと挙上する(挙尾テスト)
- 片方ずつ後 肢を尾側に持ち上げながら腰部を圧迫する(ロードシステスト)
- 直腸検査
により評価します。
6)排尿機能
排尿機能の評価では、飼主からの禀告が有用です。
自発性排尿があるか、尿漏れがあるかを聞き取ります。
また、 診察時には膀胱の触診により拡張、弛緩、緊張性を検査します。
また、膀胱を圧迫して排尿の状態(正常/容易/ 困難)を把握します。
さらに尿検査も行い、膀胱炎の有無を確認します。
1.Garosi, L. (2004) : The neurological examination. In : BSAVA Manual of canine and feline neurology, 3rd ed. (Platt, S. and, N. eds), British Small Animal Veterinary Association, Gloucester. 2.Jaggy, A. and Spiess, B. (2010) : Neurological examination of small animals. In : Atlas and Textbook of Small Animal Neurology : An Illustrated Text. (Jaggy, A. and R. eds), Schlutersche, Hannover.
本ブログでは、詳しく知りたい飼い主、獣医学生、進路や勉強に悩んでいる獣医師向けに、
出来る限り詳細に書いていますので、ぜひ他の記事もお読み下さい。
参考になれば嬉しいです。ここまでお読みいただきありがとうございました。